2024年に登録された世界遺産

2024年7月21日~7月31日に、インドのニューデリーにて第46回世界遺産委員会が開催され、新たに24件の世界遺産が登録されました。

この記事では、第46回世界遺産委員会における審議結果の概要や、新規登録された遺産の概要を紹介します。

第46回世界遺産委員会における審議結果の概要

世界遺産登録数

第46回世界遺産委員会における審議により、新たに24件の世界遺産が新規登録され、世界遺産の総数は1,222件となりました。

新規登録遺産件数分類別合計
文化遺産19件952件
自然遺産4件231件
複合遺産1件40件

危機遺産リスト登録数

『聖ヒラリオン修道院/テル・ウンム・アメル』(パレスチナ)は、今回新たに世界遺産登録されたのと同時に、危機遺産リストにも追加されました。

一方で、『ニョコロ・コバ国立公園』(セネガル)は危機遺産リストを脱し、危機遺産の総数は56件となっています。

2024年に新規登録された世界遺産

新規追加された遺産の一覧

第46回世界遺産委員会にて新規登録された世界遺産は以下のとおりです。

遺産名遺産名(英)保有国名登録基準
アッピア街道:レジーナ・ヴィアルム(街道の女王)Via Appia. Regina Viarumイタリア(iii)(iv)(vi)
ハグマターナHegmatanehイラン・イスラム共和国(ii)(iii)
モイダム:アホム王朝の墳丘墓・埋葬システムMoidams – the Mound-Burial System of the Ahom Dynastyインド(iii)(iv)
メルカ・クントゥレとバルチット:エチオピア高原地域の考古学的・古生物学的遺跡群Melka Kunture and Balchit: Archaeological and Palaeontological Sites in the Highland Area of Ethiopiaエチオピア連邦民主共和国(iii)(iv)(v)
ゲディの旧市街と考古遺跡The Historic Town and Archaeological Site of Gediケニア共和国(ii)(iii)(iv)
アル・ファーウ考古地域の文化的景観The Cultural Landscape of Al-Faw Archaeological Areaサウジアラビア王国(ii)(v)
プー・プラバート:ドヴァーラヴァティー時代のセーマ石の伝統の証拠Phu Phrabat, a testimony to the Sīma stone tradition of the Dvaravati periodタイ王国(iii)(v)
北京の中軸線:中国首都の理想的秩序を示す建造物群Beijing Central Axis: A Building Ensemble Exhibiting the Ideal Order of the Chinese Capital中華人民共和国(iii)(iv)
シュヴェリーンの邸宅群Schwerin Residence Ensembleドイツ連邦共和国(iv)
佐渡島の金山Sado Island Gold Mines日本国(iv)
聖ヒラリオン修道院/テル・ウンム・アメルSaint Hilarion Monastery/ Tell Umm Amerパレスチナ国(ii)(iii)(vi)
ティエベレの王宮Royal Court of Tiébéléブルキナファソ(iii)
ニア国立公園の洞窟群の考古学的遺産The Archaeological Heritage of Niah National Park’s Caves Complexマレーシア(iii)(v)
現代人的行動の出現:南アフリカにおける更新世の居住地群The Emergence of Modern Human Behaviour: The Pleistocene Occupation Sites of South Africa南アフリカ共和国(iii)(iv)(v)
人権と自由、和解:ネルソン・マンデラの遺産Human Rights, Liberation and Reconciliation: Nelson Mandela Legacy Sites南アフリカ共和国(vi)
ウンム・アル・ジマールUmm Al-Jimālヨルダン・ハシェミット王国(iii)
トゥルグジウにあるブランクーシの彫刻作品群Brâncuși Monumental Ensemble of Târgu Jiuルーマニア(i)(ii)
ローマ帝国の境界線:ダキアFrontiers of the Roman Empire – Daciaルーマニア (ii)(iii)(iv)
ケノゼロ湖の文化的景観Cultural Landscape of Kenozero Lakeロシア連邦(iii)
フロー・カントリーThe Flow Countryイギリス(ix)
バダインジャラン砂漠:砂の塔と湖群Badain Jaran Desert – Towers of Sand and Lakes中国(vii)(viii)
レンソイス・マラニャンセス国立公園Lençóis Maranhenses National Parkブラジル(vii)(viii)
ラヴノのヴィエトレニツァ洞窟Vjetrenica Cave, Ravnoボスニア・ヘルツェゴビナ(x)
テ・ヘヌア・エナタ:マルケサス諸島Te Henua Enata – The Marquesas Islandsフランス(iii)(vi)(vii)(ix)(x)

2024年に新規追加された文化遺産

アッピア街道:レジーナ・ヴィアルム(街道の女王)(イタリア)

※紹介準備中

ハグマターナ(イラン)

ハグマターナは、イラン北西部のハマダーン市に位置する古代都市で、紀元前7世紀から6世紀にかけてメディア文明の中心地として栄えました。その後、アケメネス朝、セレウコス朝、パルティア朝、サーサーン朝の夏の首都としても機能し、約3000年にわたる人類の居住地として多様な文明が交差しました。考古学的な遺跡は、これらの時代の都市計画や建築技術の貴重な証拠を提供し、20世紀に多くの遺物が発見されました。これにより、ハグマターナは2024年に世界遺産に登録され、その保存状態と保護対策が評価されています。

モイダム:アホム王朝の墳丘墓・埋葬システム(インド)

モイダムは、インドのアッサム州にあるアホム王朝時代の墳丘墓システムで、13世紀から19世紀にかけてタイ・アホム族の王族や貴族のために築かれました。この墳丘墓は「霊の家」を意味し、埋葬された者は神格化されると信じられていました。モイダムはアホム王朝の宗教的・文化的中心地としての役割を果たし、独自の葬儀建築と自然環境との調和が特徴です。タイ・アホム族の先祖崇拝や宇宙観を反映し、その保存状態も良好であることから、モイダムは世界遺産として高く評価されています。

メルカ・クントゥレとバルチット:エチオピア高原地域の考古学的・古生物学的遺跡群(エチオピア)

メルカ・クントゥレとバルチットは、エチオピア高原に位置する重要な考古学的・古生物学的遺跡群で、2024年に世界遺産に登録されました。メルカ・クントゥレは旧石器時代からの人類活動を示し、特に農耕社会への移行を裏付ける証拠が多く見つかっています。一方、バルチットは中世の宗教的・防衛的な拠点であり、エチオピアの歴史と文化において重要な役割を果たしました。これらの遺跡は、人類の進化、建築技術、自然との共生を示す重要な証拠として評価され、文化遺産としての価値が認められています。

ゲディの旧市街と考古遺跡(ケニア)

ゲディはケニアのキリフィ郡にある古代スワヒリ都市で、10世紀から17世紀にかけて繁栄し、特に12世紀から15世紀に最盛期を迎えました。この都市はサンゴ石や木材を使った独自の建築と高度な都市計画を持ち、内城壁と外城壁によって明確に区分されていました。ゲディはインド洋を越えた国際貿易の重要なハブであり、イスラム教の伝播にも貢献しました。17世紀に放棄されましたが、遺跡は良好に保存され、スワヒリ文明の象徴として2024年に世界遺産に登録されました。

アル・ファーウ考古地域の文化的景観(サウジアラビア)

アル・ファーウ考古地域は、サウジアラビア南部のエンプティクォーター砂漠に位置する遺跡で、旧石器時代から5世紀までの人類の活動と文化を保存しています。厳しい自然環境が遺跡の保存に寄与し、キャラバン都市や墳丘墓など約12,000の遺跡が発見されています。特に、南アラビアや地中海世界との交易拠点として重要な役割を果たしたキャラバン都市カリヤット・アル・ファウは、多文化交流の証拠として評価されています。地域社会の関与のもと、アル・ファーウは持続可能な保存が進められ、2024年に世界遺産に登録されました。

プー・プラバート:ドヴァーラヴァティー時代のセーマ石の伝統の証拠(タイ)

プー・プラ・バート歴史公園はタイのウドンターニー県に位置し、ドヴァーラヴァティー時代(7~11世紀)の仏教聖域を示すシーマ石や独特な形状の岩陰が多く残る文化的・歴史的に重要な場所です。シーマ石は仏教の修道生活や儀式に用いられ、自然と人間の手で形成された岩陰は仏教活動の場として利用されました。また、岩陰には人間や動物の姿を描いた岩絵もあり、2千年以上にわたる人間の占有を示しています。2024年に世界遺産に登録されたこの地は、仏教文化と自然景観が融合した独自の遺産です。

北京の中軸線:中国首都の理想的秩序を示す建造物群(中国)

北京の中軸線は、中国の首都北京における歴史的な都市軸線で、元朝から清朝にかけて約700年間にわたって形成されました。この軸線は、皇帝の宮殿である紫禁城や天安門広場など、重要な建造物を結び、都市計画の中心となっています。中軸線は中国の都市計画の伝統を反映し、儀式と都市管理が融合した象徴的なレイアウトを持つことから、2024年に世界遺産に登録されました。文化的景観としての独自性と、伝統と近代化の間で維持されたその歴史的価値が評価され、今後も保護と管理が重要視されています。

シュヴェリーンの邸宅群(ドイツ)

シュヴェリーンの邸宅群は、ドイツ北東部のメクレンブルク=シュヴェリーン大公国の首都シュヴェリーン市に位置し、19世紀に建設された建物、公園、庭園からなる複合施設です。中心に位置するシュヴェリーン城は、ネオルネサンス様式で再建された宮殿であり、行政や文化、宗教施設が周囲に広がっています。第二次世界大戦中に大きな被害を受けなかったため、建物は良好に保存され、歴史主義様式を象徴する文化財として評価されています。これらの要素により、シュヴェリーンの邸宅群は2024年に世界遺産に登録されました。

佐渡島の金山(日本)

佐渡島は日本の新潟県に位置し、火山性の地質により豊富な鉱物資源を持つ島です。江戸時代には日本の主要な金銀採掘地として、特に西三川砂金鉱山と相川-鶴子金銀鉱山が活発に稼働しました。採掘技術としては、非機械化の「大流し」やトンネル掘りが行われ、徳川幕府による厳格な管理体制の下で金生産が増加しました。明治時代以降も西洋技術を導入し、採掘活動が続きました。現在、佐渡島の金山遺跡は保存され、2024年に世界遺産に登録され、その歴史的・文化的価値が国際的に評価されています。

聖ヒラリオン修道院/テル・ウンム・アメル(パレスチナ)

※紹介準備中

ティエベレの王宮(ブルキナファソ)

ティエベレの王宮は、ブルキナファソ南部に位置する16世紀に建設された歴史的建築群で、カセナ人の社会組織と文化を象徴する重要な遺産です。王宮は土や木材などの自然素材を用いた独特な建築様式と、女性による象徴的な壁画装飾で知られています。建物は住民の地位に応じて配置され、地域社会の儀式や文化伝承の中心地として機能しています。ティエベレの王宮はカセナ文化の豊かさを示す遺産として評価され、2024年に世界遺産に登録されました。

ニア国立公園の洞窟群の考古学的遺産(マレーシア)

※紹介準備中

現代人的行動の出現:南アフリカにおける更新世の居住地群(南アフリカ)

※紹介準備中

人権と自由、和解:ネルソン・マンデラの遺産(南アフリカ)

ネルソン・マンデラは、南アフリカのアパルトヘイト体制に対する解放闘争の象徴的リーダーであり、その遺産は「人権、解放、和解」の象徴として国際的に評価されています。マンデラはANC(アフリカ民族会議)を通じて非暴力的抗議から武装闘争へと移行し、27年間の投獄を経て、南アフリカを民主主義国家へと導きました。彼の「ウブントゥ」の哲学に基づく和解と対話のアプローチは、国内外で高く評価され、1993年にはノーベル平和賞を受賞しました。マンデラの遺産は、2024年に世界遺産として登録され、その意義は今後も平和と和解の象徴として世界中に影響を与え続けるでしょう。

ウンム・アル・ジマール(ヨルダン・ハシェミット)

ウンム・アルジマールは、北ヨルダンの歴史的農村集落で、5世紀頃にローマ時代の遺跡上に発展し、8世紀まで続きました。玄武岩を用いた建築物やビザンチン、初期イスラム時代の建築が特徴的で、ナバテア王国時代からローマ、ビザンチン、イスラムといった多くの時代の影響を受けながら発展しました。革新的な水収集システムや地域特有の建築様式が高く評価され、2024年に世界遺産に登録されました。現代でも、地域の伝統や無形文化遺産が継承されています。

トゥルグジウにあるブランクーシの彫刻作品群(ルーマニア)

※紹介準備中

ローマ帝国の境界線:ダキア(ルーマニア)

ダキアは、現在のルーマニアを中心とした古代の王国で、2024年に「ローマ帝国の境界線:ダキア」として世界遺産に登録されました。この地域は、豊富な鉱物資源や戦略的な地理的位置からローマ帝国に注目され、ダキア戦争を経てローマに併合されました。ダキアはローマ文化と融合しつつも、独自の文化や宗教を保持し、特に防衛システムや要塞都市サルミゼゲトゥサが高く評価されています。これらの要素が、ダキアを世界遺産にふさわしいと評価する理由となりました。

ケノゼロ湖の文化的景観(ロシア)

ケノゼロ湖はロシア北西部のアルハンゲリスク州に位置し、豊かな自然環境と歴史的価値を持つ地域です。12世紀から19世紀にかけて建設された伝統的な木造建築や、スラブ人の定住による農村の景観が特徴です。ケノゼロ湖周辺には、独自の建築技術や文化が保存され、無形文化遺産としても重要な価値を持っています。1991年のケノゼロ国立公園の設立により、保全活動が進められ、2024年に世界遺産に登録されました。これにより、地域の文化遺産保護と経済活性化が一層促進されています。

2024年に新規追加された自然遺産

フロー・カントリー(イギリス)

フロー・カントリーは、スコットランド北部に広がる世界最大級のブランケットボグであり、その9,000年にわたる泥炭形成と独自の生態系により、2024年に世界遺産に登録されました。この地域は、豊かな生物多様性を持ち、特に炭素隔離において地球規模の気候変動緩和に重要な役割を果たしています。フロー・カントリーの保護活動は、1970年代に始まり、科学者や地域コミュニティの協力により進められ、今回の世界遺産登録に至りました。今後もこの地域の生態系と自然遺産が保護され、次世代へと受け継がれていくことが期待されています。

バダインジャラン砂漠:砂の塔と湖群(中国)

バダインジャラン砂漠は、中国内モンゴル自治区に位置する広大な砂漠で、2024年に世界遺産に登録されました。この砂漠は、世界で最も高い砂丘の一つであるメガデューンや、独特な「鳴砂」現象、色彩豊かな湖群で知られています。これらの湖は地下水によって形成され、砂漠内の生態系に重要な役割を果たしています。砂漠の地質学的進化や気候変動の証拠は、地球の歴史を理解するために重要であり、その自然美と地質学的価値が評価されて世界遺産に登録されました。

レンソイス・マラニャンセス国立公園(ブラジル)

レンソイス・マラニャンセス国立公園は、ブラジル北東部マラニャン州に位置する広大な国立公園で、156,562ヘクタールの面積を持ち、白い砂丘地帯とラグーンが特徴です。公園内の砂丘は風によって形成され、雨季にはラグーンが出現し、季節ごとに変化する景観が楽しめます。1981年に設立されたこの公園は、独特の地質学的特徴と美しい自然景観が評価され、2024年に世界遺産に登録されました。地域コミュニティと協力し、自然保護と持続可能な観光が推進されています。

ラヴノのヴィエトレニツァ洞窟(ボスニア・ヘルツェゴビナ)

ヴェトレニツァ洞窟は、ボスニア・ヘルツェゴビナ南部のディナルアルプスに位置する洞窟で、全長7,324メートルを誇り、豊かな生物多様性を有しています。特に、231種の生物が確認されており、その多くは固有種で、洞窟生物の多様性が世界的に評価されています。洞窟は古代から知られ、20世紀以降の研究でその科学的価値が明らかになりました。保護と管理が課題となっていますが、適切な対策が講じられることで、その生態系が持続的に保たれることが期待されています。

2024年に新規追加された複合遺産

テ・ヘヌア・エナタ:マルケサス諸島(フランス)

※紹介準備中

まとめ

この記事では、2024年に新規登録された世界遺産の紹介を随時更新しています。

まだ準備中となっている遺産の紹介も今後更新していく予定ですので、ぜひブックマークしてまた訪問いただけると幸いです。

投稿者 伊藤

慶應義塾大学文学部卒業。在学中は西洋史学を専攻し、20世紀におけるアメリカの人種差別問題を題材に卒業論文を執筆。世界遺産検定1級。

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