プー・プラ・バート

2024年に世界遺産に登録されたプー・プラ・バート(Phu Phrabat)について、その歴史的背景と価値を知りたいと考えているあなたへ。本記事では、プー・プラ・バートの概要と、なぜ世界遺産に選ばれたのか、その理由を分かりやすく解説します。プー・プラ・バートの魅力をぜひご覧ください。

プー・プラ・バートとは

プー・プラ・バート歴史公園は、タイのウドンターニー県に位置する文化的および歴史的に重要な場所です。この公園は、ドヴァーラヴァティー時代(7世紀~11世紀)にさかのぼるシーマ石と呼ばれる聖域の境界石が多数存在することで知られています。公園内には独特の形状をした岩陰が点在しており、これらは自然の力と人間の手によって形成され、仏教の修道生活や儀式のために利用されてきました。

位置と地理的特徴

プー・プラ・バート歴史公園は、タイの北東部に位置するコラート高原の北部、パー・クア・ナム国立保護林内にあります。この地域は、プー・パン山脈の一部であり、小さな砂岩の山が特徴的です。氷河の移動や岩層の異なる浸食作用により、特異な形状の岩陰が形成されています。これらの岩陰は、森林に囲まれた美しい自然景観の中に点在し、訪れる人々に神秘的な雰囲気を与えます。

シーマ石とは何か

シーマ石は、仏教の用語で、仏教僧侶や尼僧が儀式を行うための聖域を示す境界石を指します。仏教経典に従って、聖域を区切るために使用されるもので、通常は8つの方向に対称的に配置されます。シーマ石は、木製の柱、シロアリ塚、川などのさまざまな材料や自然の特徴を利用して区切ることができますが、プー・プラ・バートでは主に石が使用されています。この地域には、ドヴァーラヴァティー時代のシーマ石が多数残されており、その多くは元の場所に残っているため、非常に貴重です。

岩陰とその形状

プー・プラ・バートの岩陰は、その形状が非常に独特であり、多くはキノコのような形をしています。大きな平らな岩のブロックが1本または複数の高い岩の柱の上に乗っており、一部の岩陰は高さ10メートル以上に達します。これらの岩陰は、自然の力だけでなく、人間の手によっても形成および改造されてきました。多くの岩陰は仏教活動のために改造され、シーマ石で囲まれているものもあります。また、岩陰の表面には人間や動物、幾何学模様などが描かれた岩絵が見られ、これらは2千年以上にわたる人間の占有の証拠となっています。

プー・プラ・バート歴史公園は、その独特な地形と歴史的な遺産により、訪れる人々に豊かな文化と自然の魅力を提供しています。

プー・プラ・バートの歴史

プー・プラ・バート

ドヴァーラヴァティー時代のシーマ石の伝統

プー・プラ・バートの歴史は、7世紀から11世紀にかけてのドヴァーラヴァティー時代に遡ります。この時代は、タイの歴史において重要な文化的変革期であり、特に仏教の影響が強く現れています。シーマ石の伝統は、この時代の仏教文化の一部として発展しました。シーマ石は、仏教の修道生活のための聖域を区切るための境界石であり、宗教儀式や修行の場として使用されました。

ドヴァーラヴァティー時代のシーマ石は、非常に特徴的で、石の形状や配置パターンが一定の規則に従っています。シーマ石は通常、聖域を囲むように8つの方向に配置され、仏教経典に基づく正方形や長方形の領域を形成しました。これらの石は、シンプルな自然石から始まり、次第に立方体や八角柱、そして蓮の花びらの形をした石板へと進化していきました。この進化の過程は、ドヴァーラヴァティー時代の仏教文化の発展と共にあり、シーマ石は宗教的なシンボルとしての重要性を増していきました。

仏教の到来とシーマ石の設置

仏教がタイに到来したのは7世紀頃であり、これに伴いシーマ石の設置が始まりました。仏教の教えは、地域の信仰や習慣に深い影響を与え、シーマ石の設置はその一環として行われました。仏教の到来は、地域社会に新しい宗教的秩序をもたらし、修道僧や尼僧のための修行の場が求められるようになりました。

プー・プラ・バートでは、多くのシーマ石が設置され、その数は4世紀以上にわたって増え続けました。これらの石は、単なる境界標識としてだけでなく、聖域の神聖さを象徴する重要な要素として機能しました。シーマ石の設置により、プー・プラ・バートの地域は仏教の重要な修道センターとして発展し、多くの僧侶や尼僧がこの地で修行を行いました。

岩陰の改造と宗教的な使用

プー・プラ・バートの岩陰は、自然の力と人間の手によって形作られ、改造されてきました。氷河の移動や岩層の浸食によって形成されたこれらの岩陰は、仏教の到来と共に宗教的な使用のために改造されました。多くの岩陰は、仏教の修行や儀式のための場所として利用され、シーマ石で囲まれることで聖域としての役割を果たしました。

岩陰の改造には、岩を彫って部屋を作ることや、仏像を安置するためのスペースを設けることが含まれます。これらの改造は、僧侶たちが瞑想や修行を行うための場所を提供するだけでなく、地域社会における宗教活動の中心としての役割も果たしました。岩陰の中には、仏教儀式のための礼拝堂や僧侶の住居として使用されたものもあり、その多くが今日までその形を保っています。

岩絵の歴史とテーマ

プー・プラ・バートの岩陰には、多くの岩絵が描かれています。これらの岩絵は、紀元前1世紀に遡るもので、人間の姿や動物、幾何学模様などが描かれています。岩絵のテーマは多岐にわたり、地域の信仰や儀式、日常生活を反映しています。

これらの岩絵は、地域の人々がどのように自然を崇拝し、仏教の教えを取り入れていったかを示す重要な証拠です。岩絵の多くは、宗教的な儀式や祭りの一環として描かれ、地域社会の精神的な生活の一部を形成していました。仏教の到来後、岩絵のテーマは仏教の教義や物語に関連するものへと変化し、仏教文化の影響を受けた新しい絵が描かれるようになりました。

プー・プラ・バートの岩絵は、その保存状態も良好であり、今日でも多くの絵が鮮明に残っています。これらの岩絵は、地域の歴史や文化を理解する上で重要な資料となっており、プー・プラ・バートの魅力を一層高めています。

プー・プラ・バートが世界遺産に登録された理由

シーマ石の重要性と保存状況

プー・プラ・バートのシーマ石は、ドヴァーラヴァティー時代における仏教の宗教儀式と修道生活の中心的な要素として非常に重要です。シーマ石は、仏教の聖域を示すための境界標識として機能し、その配置や形状は仏教経典に基づいています。これらの石は、単なる物理的な境界を示すだけでなく、仏教の神聖な空間を形成する役割を果たしていました。

プー・プラ・バートには、世界で最も多くのドヴァーラヴァティー時代のシーマ石が元の場所に保存されています。多くのシーマ石は、長い年月を経てもその位置を変えず、当時のままの配置で残されています。これにより、シーマ石の伝統や仏教儀式の歴史的背景を理解するための貴重な資料となっています。タイ政府と地元のコミュニティは、これらのシーマ石の保存と保護に積極的に取り組んでおり、その結果、シーマ石の多くは良好な状態で保存されています。

ドヴァーラヴァティー時代の宗教的中心地としての役割

プー・プラ・バートは、ドヴァーラヴァティー時代における重要な宗教的中心地でした。この時代、仏教はタイ全土に広まり、多くの修道僧や尼僧が修行を行う場所としてプー・プラ・バートを選びました。シーマ石が設置された聖域は、修行や儀式の場として利用され、地域社会における仏教の重要な拠点となりました。

プー・プラ・バートの岩陰は、宗教的な目的で改造され、多くの仏教儀式や瞑想が行われました。これにより、プー・プラ・バートは単なる自然の風景から宗教的な活動の中心地へと変貌しました。その結果、地域社会における精神的な支柱として機能し、多くの僧侶や尼僧がここで修行を行い、仏教の教えを広める場となりました。

独自性と普遍的価値

プー・プラ・バートの独自性は、その地理的特徴と文化的遺産の融合にあります。キノコのような形をした岩陰や、自然と人間の手によって形作られた風景は他に類を見ないものです。これらの岩陰とシーマ石の組み合わせは、仏教の聖域としての役割を果たし、訪れる人々に神秘的な雰囲気を提供します。

さらに、プー・プラ・バートは、ドヴァーラヴァティー時代のシーマ石の伝統を最も完全な形で保存している場所です。これにより、プー・プラ・バートは世界的に見ても非常に重要な文化的遺産となっており、その普遍的価値が認められています。シーマ石の配置や形状は、仏教の教えや儀式の歴史を理解する上で欠かせない要素であり、その保存状態の良さから、歴史研究の重要な資料となっています。

保護と管理の取り組み

プー・プラ・バートの保護と管理は、タイ政府と地元コミュニティの共同努力によって行われています。タイの文化財保護法や国立保護林法などの法律に基づき、シーマ石や岩陰の保存が厳格に管理されています。また、プー・プラ・バート歴史公園の管理計画が策定され、定期的なモニタリングとメンテナンスが行われています。

地元のコミュニティも、清掃活動や維持管理に積極的に参加しており、その結果、プー・プラ・バートの文化遺産は良好な状態で保存されています。また、観光客の増加に対応するためのインフラ整備や、訪問者の教育プログラムも実施されており、持続可能な観光の実現に向けた取り組みも進められています。

これらの保護と管理の取り組みにより、プー・プラ・バートはその歴史的・文化的価値を維持し続けており、世界遺産としての地位を確固たるものとしています。

まとめ

プー・プラ・バートは、その歴史的・文化的価値から2024年に世界遺産に登録されました。ドヴァーラヴァティー時代のシーマ石の保存状態や仏教の聖域としての役割、独特の地形と岩絵などが評価されています。タイ政府と地元の努力により、これらの遺産は良好に保存され続けています。この記事を通じて、プー・プラ・バートの魅力と重要性を理解していただけたでしょうか。

投稿者 伊藤

慶應義塾大学文学部卒業。在学中は西洋史学を専攻し、20世紀におけるアメリカの人種差別問題を題材に卒業論文を執筆。世界遺産検定1級。