【2026年最新】危機遺産とは?全58件一覧と新規登録・解除をわかりやすく解説
危機遺産とは、ユネスコの世界遺産のうち、顕著な普遍的価値(Outstanding Universal Value)を脅かす深刻な脅威があり、「危機にさらされている世界遺産リスト」(List of World Heritage in Danger)に記載された物件のことです。正式には「危機にさらされている世界遺産」と呼ばれ、日本では「危機遺産」と略されることが多いです。
この記事では、2026年7月時点の全58件の危機遺産についてまとめ、定義、2026年のリスト入り6件・離脱1件、全58件の一覧、主な危機要因、よくある疑問を一通り整理します。
※リストは世界遺産検定の資料(2026年7月更新PDF)を基に、ユネスコ公式の List of World Heritage in Danger と第48回世界遺産委員会(韓国・釜山)の発表を照合して作成
危機遺産の基本情報
| 項目 | 内容(2026年7月時点) |
|---|---|
| 危機遺産の総数 | 58件 |
| 今回リスト入り | 6件(うち緊急手続による新規登録と同時記載が3件) |
| 今回リスト離脱 | 1件(ウィーンの歴史地区/オーストリア) |
| 委員会 | 第48回世界遺産委員会(韓国・釜山、2026年7月19〜29日) |
| 日本の危機遺産 | なし |
| 一次情報 | UNESCO Danger List、Facing major threats…、世界遺産検定資料 |
2026年に新たに世界遺産となった遺産の全体像は、2026年新規登録まとめ(全25件)もあわせてご覧ください。
危機遺産とは
正式名称と目的
危機遺産の正式名称は、英語で List of World Heritage in Danger、日本語では「危機にさらされている世界遺産リスト」です。世界遺産条約第11条4項に基づき、世界遺産委員会が記載を決定します。
ユネスコによれば、このリストの目的は次のとおりです。
- 国際社会へ脅威を周知する(武力紛争、自然災害、汚染、密猟、無秩序な都市化・観光開発など)
- 保全への支援を集める(世界遺産基金からの緊急支援、国際協力の呼び水)
- 是正措置のプログラムを採択する(締約国と協議のうえ、脅威を取り除くための道筋を示す)
つまり危機遺産は「落第リスト」ではなく、価値を守るための警報と支援の枠組みとして位置づけられています(参照:World Heritage in Danger)。
通常の世界遺産登録との違い
| 観点 | 世界遺産一覧表 | 危機遺産リスト |
|---|---|---|
| 対象 | 顕著な普遍的価値が認められた遺産 | すでに世界遺産である物件のうち、価値が深刻に脅かされているもの |
| 効果 | 国際的な認知・保護の枠組み | 脅威の周知、緊急支援、是正措置の監視 |
| 終了条件 | 削除されない限り継続 | 脅威が解消されればリストから除外。価値を失えば世界遺産自体から削除される場合もある |
文化遺産・自然遺産それぞれに、「確認された危険」(Ascertained Danger)と「潜在的な危険」(Potential Danger)の基準が作業指針に定められています。武力紛争の発生・恐れ、保護法制の弱体化、開発計画、気候変動の影響なども、潜在的危険の例として挙げられます。
リスト入り・解除の考え方
- リスト入り: 世界遺産委員会が、締約国からの報告や諮問機関の勧告などを踏まえて決定します。締約国が自らリスト入りを求める場合もあります。
- リスト離脱(解除): 是正措置が進み、脅威が十分に抑えられたと判断されると、危機遺産リストから除外されます。世界遺産であること自体は維持されます。
- 世界遺産からの削除: 危機遺産とは別の最終手段です。顕著な普遍的価値が失われたと判断された場合、危機遺産リストと世界遺産一覧表の双方から削除されることがあります。
2026年に危機遺産リストへ入った6件
第48回世界遺産委員会では、6件が新たに危機遺産リストへ記載されました。うち3件は、緊急手続で世界遺産に登録されると同時に危機遺産リストへ入りました(参照:UNESCO発表)。
緊急手続で新規登録と同時にリスト入りした3件
ボマとバディンギロにおける動物の渡りの景観(南スーダン)
東アフリカのサバンナに広がる自然遺産で、大型哺乳類の大移動を支える景観として評価されています。南スーダン初の世界遺産です。委員会は、インフラ開発、商業的密猟、野生生物の違法取引、治安の不安定さ、制度・資金面の制約を深刻な脅威として指摘しました。登録基準は**(vii)(ix)(x)**です。
セバスティア(パレスチナ)
少なくとも紀元前9世紀以降の重層的な考古遺跡です。委員会は、計画されている「サマリア(ショムロン)国立公園」による資産の分断リスクに加え、中東情勢、開発・土地利用、ガバナンス、遺構の劣化を脅威として挙げました。登録基準は**(iii)**です。
アメル山の城塞群(レバノン)
十字軍期から19世紀末までの防衛システムの変遷を示す城砦群です。武力紛争による被害が進行しており、緊急の介入が必要とされています。登録基準は**(ii)(iv)**です。
これら3件の登録経緯は、2026年新規登録まとめの緊急手続セクションでも扱っています。
既存世界遺産からリスト入りした3件
タウリカ半島の古代都市とチョーラ(ウクライナ)
公式英語名は Ancient City of Tauric Chersonese and its Chora です。委員会は、クリミア自治共和国がロシア連邦により一時的に占領されているため、ウクライナが保護・管理責任を果たせないこと、衛星画像によるモニタリングで真正性・完全性の著しい悪化が確認されたことを理由に、危機遺産リストへの記載を決定しました。
パラマリボの歴史街区(スリナム)
公式英語名は Historic Inner City of Paramaribo です。管理計画の整備などは評価された一方、影響評価を経ない建設が進み、新国会庁舎や駐車場施設が歴史的都市景観を損ない、真正性と完全性を大きく損なう「確認された脅威」と判断されました。
フェニキア都市ティルス(レバノン)
公式英語名は Tyre です。レバノンでの敵対行為が続き、顕著な普遍的価値の保全条件が満たされていないと委員会は判断しました。締約国からの危機遺産リスト入りの要請も踏まえ、記載が決定されています。
2026年に危機遺産リストを脱した遺産
ウィーンの歴史地区(オーストリア)
第48回世界遺産委員会は、ウィーンの歴史地区(Historic Centre of Vienna)を危機遺産リストから除外しました(参照:UNESCO World Heritage: 25 new sites inscribed)。
同資産は2001年に世界遺産登録、2017年に危機遺産リスト入りしていました。高層建築を含む都市開発計画(ホイマルクト周辺)が歴史的景観を損なうおそれが主な論点でした。計画の見直しなどを経て委員会が解除を決定した一方、関連プロジェクトの環境影響評価など国内手続きは継続している、と報じられています。
重要なのは、危機遺産リストを脱しても世界遺産であることには変わりないという点です。解除は「脅威への対応が進んだ」ことを意味し、今後の監視が不要になるわけではありません。
危機遺産一覧(全58件・2026年7月時点)
以下は、世界遺産検定資料の日本語名を基本とし、危機遺産リストへの記載年は同資料およびユネスコ公式一覧に準拠します。区分(文化/自然)はユネスコの分類に基づきます。複数の期間にリスト記載された遺産は、過去の期間も併記しています。
アジア・太平洋
| 遺産名 | 保有国・地域 | 区分 | 危機遺産リスト記載年 |
|---|---|---|---|
| ジャームのミナレットと考古遺跡群 | アフガニスタン | 文化 | 2002 |
| バーミヤン渓谷の文化的景観と古代遺跡群 | アフガニスタン | 文化 | 2003 |
| スマトラの熱帯雨林遺産 | インドネシア | 自然 | 2011 |
| ナン・マトール:ミクロネシア東部の儀礼的中心地 | ミクロネシア連邦 | 文化 | 2016 |
| 東レンネル | ソロモン諸島 | 自然 | 2013 |
| シャフリサブズの歴史地区 | ウズベキスタン | 文化 | 2016 |
アラブ諸国
| 遺産名 | 保有国・地域 | 区分 | 危機遺産リスト記載年 |
|---|---|---|---|
| エルサレムの旧市街とその城壁群 | エルサレム(ヨルダンによる申請) | 文化 | 1982 |
| アッシュル(カラット・シェルカット) | イラク | 文化 | 2003 |
| 古代都市サーマッラー | イラク | 文化 | 2007 |
| 円形都市ハトラ | イラク | 文化 | 2015 |
| ザビードの歴史地区 | イエメン | 文化 | 2000 |
| サナアの旧市街 | イエメン | 文化 | 2015 |
| 城壁都市シバーム | イエメン | 文化 | 2015 |
| マリブ:古代サバ王国の代表的遺跡群 | イエメン | 文化 | 2023 |
| キレーネの考古遺跡 | リビア | 文化 | 2016 |
| サブラータの考古遺跡 | リビア | 文化 | 2016 |
| レプティス・マグナの考古遺跡 | リビア | 文化 | 2016 |
| タドラールト・アカークスの岩絵遺跡群 | リビア | 文化 | 2016 |
| アレッポの旧市街 | シリア | 文化 | 2013 |
| 隊商都市ボスラ | シリア | 文化 | 2013 |
| ダマスカスの旧市街 | シリア | 文化 | 2013 |
| シリア北部の古代集落群 | シリア | 文化 | 2013 |
| クラック・デ・シュヴァリエとカラット・サラーフ・アッディーン | シリア | 文化 | 2013 |
| 古代都市パルミラ | シリア | 文化 | 2013 |
| オリーヴとワインの地-バッティールの丘:南エルサレムの文化的景観 | パレスチナ | 文化 | 2014 |
| ヘブロン:アル・ハリールの旧市街 | パレスチナ | 文化 | 2017 |
| 聖ヒラリオン修道院/テル・ウンム・アメル | パレスチナ | 文化 | 2024 |
| セバスティア | パレスチナ | 文化 | 2026 |
| トリポリのラシード・カラーミー国際見本市会場 | レバノン | 文化 | 2023 |
| アメル山の城塞群 | レバノン | 文化 | 2026 |
| フェニキア都市ティルス | レバノン | 文化 | 2026 |
アフリカ
| 遺産名 | 保有国・地域 | 区分 | 危機遺産リスト記載年 |
|---|---|---|---|
| ニンバ山厳正自然保護区 | ギニア/コートジボワール | 自然 | 1992 |
| アイールとテネレの自然保護区群 | ニジェール | 自然 | 1992 |
| ヴィルンガ国立公園 | コンゴ民主共和国 | 自然 | 1994 |
| ガランバ国立公園 | コンゴ民主共和国 | 自然 | 1984〜92、1996〜 |
| オカピ野生動物保護区 | コンゴ民主共和国 | 自然 | 1997 |
| カフジ・ビエガ国立公園 | コンゴ民主共和国 | 自然 | 1997 |
| マノヴォ=グンダ・サン・フローリス国立公園 | 中央アフリカ共和国 | 自然 | 1997 |
| 伝説の都市トンブクトゥ | マリ | 文化 | 1990〜2005、2012〜 |
| アスキア墳墓 | マリ | 文化 | 2012 |
| ジェンネの旧市街 | マリ | 文化 | 2016 |
| セルー動物保護区 | タンザニア | 自然 | 2014 |
| トゥルカナ湖国立公園群 | ケニア | 自然 | 2018 |
| ボマとバディンギロにおける動物の渡りの景観 | 南スーダン | 自然 | 2026 |
ヨーロッパ・北米
| 遺産名 | 保有国・地域 | 区分 | 危機遺産リスト記載年 |
|---|---|---|---|
| コソボの中世建造物群 | セルビア | 文化 | 2006 |
| ロシア・モンタナの鉱山景観 | ルーマニア | 文化 | 2021 |
| オデーサの歴史地区 | ウクライナ | 文化 | 2023 |
| キーウ:聖ソフィア聖堂と関連修道院群、キーウ・ペチェルーシク大修道院 | ウクライナ | 文化 | 2023 |
| リヴィウ歴史地区 | ウクライナ | 文化 | 2023 |
| タウリカ半島の古代都市とチョーラ | ウクライナ | 文化 | 2026 |
| エヴァーグレーズ国立公園 | アメリカ合衆国 | 自然 | 1993〜2007、2010〜 |
ラテンアメリカ・カリブ
| 遺産名 | 保有国・地域 | 区分 | 危機遺産リスト記載年 |
|---|---|---|---|
| チャンチャンの考古地区 | ペルー | 文化 | 1986 |
| コロとその港 | ベネズエラ | 文化 | 2005 |
| リオ・プラタノ生物圏保存地域 | ホンジュラス | 自然 | 1996〜2007、2011〜 |
| パナマのカリブ海側の要塞群:ポルトベロとサン・ロレンツォ | パナマ | 文化 | 2012 |
| ポトシの市街 | ボリビア | 文化 | 2014 |
| カリフォルニア湾の島々と自然保護区群 | メキシコ | 自然 | 2019 |
| パラマリボの歴史街区 | スリナム | 文化 | 2026 |
公式の英語名・最新の国別一覧は、常に UNESCO List of World Heritage in Danger を正としてください。
危機遺産に登録される主な理由
危機の要因は一つに限らず、複合することが少なくありません。代表的な類型は次のとおりです。
| 要因の類型 | 内容の例 | 今回・既存の例 |
|---|---|---|
| 武力紛争・治安の悪化 | 爆撃、略奪、管理不能 | ティルス、アメル山の城塞群、シリア各資産、ウクライナの複数資産 |
| 都市開発・インフラ | 高層建築、道路、公園計画による景観・完全性の毀損 | パラマリボ、セバスティア(国立公園計画)、過去のウィーン |
| 密猟・生態系の破壊 | 商業密猟、生息地分断、違法取引 | ボマ=バディンギロ、コンゴ民主共和国の自然遺産群 |
| 気候変動・環境圧力 | 水位変化、サンゴ・湿地の劣化、極端気象 | エヴァーグレーズ、トゥルカナ湖 など |
| 保護体制の弱体化 | 法制度・資金・人材不足、占領による管理不能 | タウリカ半島の古代都市とチョーラ など |
イエメンのサナアの旧市街のように、紛争下で伝統的都市景観が損なわれるケースは、文化遺産における危機の典型例の一つです。
よくある疑問(FAQ)
日本に危機遺産はある?
2026年7月時点で、日本の世界遺産に危機遺産はありません。 国内の世界遺産は27件(文化22・自然5)で、いずれも危機遺産リストには記載されていません。日本の最新の登録事例としては、飛鳥・藤原の宮都が2026年に世界文化遺産へ登録されています。国内の代表例として古都京都の文化財や厳島神社もあわせて参照してください。
危機遺産になると世界遺産から削除される?
いいえ。危機遺産リスト入りは、ただちに世界遺産からの削除を意味しません。 むしろ国際的な注目と支援を集め、是正措置を進めるための仕組みです。価値が回復すればリストから外れ、逆に価値が失われたと判断された場合に限り、世界遺産一覧表からの削除が検討されます。削除は例外的な最終手段です。
危機遺産リストはいつ更新される?
原則として、毎年開催される世界遺産委員会の決議で追加・除外が決まります。会期中や直後に件数が変わるため、本記事のようなまとめは委員会後に更新する動的コンテンツとして扱うのが適切です。最新件数はユネスコ公式の危機遺産一覧で確認してください。
まとめ
危機遺産は、世界遺産の価値を脅かす深刻な状況を国際社会に知らせ、保全支援につなげるためのリストです。第48回世界遺産委員会(2026年7月・釜山)の結果、リスト入り6件・離脱1件を経て、危機遺産は全58件となりました。緊急手続で新規登録と同時にリスト入りした3件、既存資産からの追加3件、ウィーン歴史地区の解除が、今回の主な動きでした。
件数や個別資産の状況は今後も変わります。学習や時事の確認には、本記事とあわせて UNESCO List of World Heritage in Danger および 2026年新規登録まとめ を参照してください。
参照(2026年7月30日時点): 世界遺産検定 2026年7月資料、UNESCO World Heritage in Danger、List of World Heritage in Danger、Facing major threats, six new sites…、UNESCO World Heritage: 25 new sites inscribed