ユネスコ世界遺産

2024年に世界遺産に登録されたインドの「モイダム:アホム王朝の墳丘墓・埋葬システム」( Moidams – the Mound-Burial System of the Ahom Dynasty )は、タイ・アホム族の歴史と文化を象徴する貴重な遺産です。本記事では、モイダムの基本情報からその歴史的背景、そして世界遺産として認められた理由まで、包括的に解説します。モイダムの魅力とその重要性について一緒に学びましょう。

モイダムとは

モイダムの基本情報

モイダムは、インドのアッサム州にあるアホム王朝時代の墳丘墓システムです。これらの墓は、13世紀から19世紀にかけて、タイ・アホム族の王族や貴族のために築かれました。モイダムは「霊の家」という意味を持ち、その構造は土で覆われた中空の地下室から成り、レンガ、石、または土で作られています。墳丘の内部には、埋葬された王や貴族の遺骨と共に、食物、馬、象などの副葬品が納められ、時には王妃や使用人も一緒に埋葬されました。現在、アッサム州のチャラデオ地区にある推薦地内には、大小様々な90のモイダムが存在します。

アホム王朝とモイダム

アホム王朝は13世紀から19世紀にかけて、インド北東部のアッサム州を支配した強力な王朝です。アホム王朝の創始者であるタイ・アホム族の王子スウカファは、13世紀に現代のミャンマーと中国との国境地域であるモン・マオからアッサムに移住し、チャラデオを王朝の最初の恒久的な首都としました。アホム王朝の王族は、死後に神格化され、モイダムに埋葬されることで天と地をつなぐ存在とされました。モイダムは王族や貴族の埋葬地としての役割を果たし、タイ・アホム族の信仰と精神性を具現化した場所です。

チャラデオの地理的特徴

チャラデオはアッサム州東部のパットカイ山脈の麓に位置し、豊かな自然環境に恵まれています。この地域は丘陵地帯、森林、水域など多様な地形を持ち、これらの自然の特性を活かしてモイダムが築かれました。丘陵地の高い場所にモイダムが配置され、周囲の自然景観と調和するように設計されています。また、バニヤンの木や儀式に使用される特定の木が植えられ、水域も創造されました。これにより、タイ・アホム族の信仰と宇宙論を反映した神聖な地理が形成されました。チャラデオの風景は、600年以上にわたってタイ・アホム族の宗教的信仰と自然との結びつきを象徴しています。

モイダムの歴史

タイ・アホム族の起源

タイ・アホム族の起源は、多くの学説や伝説に包まれています。彼らは現在のタイ、ミャンマー、ラオス、カンボジア、ベトナム、中国など、アジア各地に広がるタイ系の民族グループの一部です。タイ・アホム族は13世紀にモン・マオ(現在のミャンマーと中国の国境地域)からインドのアッサム州に移住しました。この移住のリーダーは王子スウカファであり、彼はアッサム州に到着後、チャラデオを王朝の初めての恒久的な首都としました。タイ・アホム族は、独自の言語と文化を持ち、先祖崇拝や自然崇拝の信仰を大切にしてきました。

アホム王朝の成立と繁栄

アホム王朝は、13世紀にスウカファ王子によって設立され、その後600年にわたりアッサム州を支配しました。アホム王朝は強力な軍事力と優れた行政能力を持ち、地域の他の小王国を統合し、大きな勢力を築きました。アホム王朝は、土地の肥沃さと水資源の豊富さを活かして農業を発展させ、経済的な繁栄を遂げました。また、アホム王朝は独自の文字で書かれた「ブランジス」(王家の年代記)を通じて、自らの歴史や文化を記録しました。これらの記録は、現在でもアホム王朝の歴史を理解する重要な資料となっています。

王族の埋葬習慣とモイダムの役割

アホム王朝の王族の埋葬習慣は非常に特異で、モイダムと呼ばれる墳丘墓がその中心にありました。モイダムは、王族や貴族の遺体を埋葬するための特別な場所であり、埋葬された者は神格化されると信じられていました。モイダムは土で覆われた中空の地下室で構成され、レンガ、石、または土で作られていました。地下室には遺体や遺骨と共に、食物、馬、象、時には王妃や使用人も副葬品として納められました。モイダムはタイ・アホム族の信仰と精神性を体現するものであり、彼らの宇宙観と自然崇拝を反映しています。

イギリス植民地時代とモイダムの変遷

19世紀末にアッサム州はイギリスの植民地となり、アホム王朝はその終焉を迎えました。イギリス植民地時代には、モイダムの埋葬習慣は次第に廃れていきましたが、その歴史的価値と文化的重要性は認識され続けました。植民地時代の終わりと共に、インド政府はモイダムの保護と保存に取り組み始めました。現在では、モイダムはインドの重要な文化遺産として認識されており、その保存と修復が進められています。モイダムは、タイ・アホム族の豊かな歴史と文化を象徴する遺産として、地元の人々や訪問者にとって重要な場所であり続けています。

モイダムが世界遺産に登録された理由

モイダムの文化的価値

モイダムは、アッサム州におけるタイ・アホム族の王朝時代を象徴する文化的遺産です。13世紀から19世紀にかけて築かれたこれらの墳丘墓は、タイ・アホム族の歴史、宗教、社会構造を反映しています。モイダムは、王族の埋葬地としての役割だけでなく、地域社会の精神的中心地としても機能しており、タイ・アホム文化の豊かな伝統と習慣を今に伝えています。

葬儀建築の独自性

モイダムの葬儀建築は、その独自性と複雑さで際立っています。これらの墳丘墓は、土で覆われた中空の地下室で構成されており、レンガ、石、または土で作られています。地下室には、王や貴族の遺骨や火葬された遺骨、副葬品が納められています。さらに、墳丘の頂上には小さな神殿があり、これが天と地をつなぐ象徴となっています。この建築様式は、タイ・アホム族の宇宙観と宗教的信仰を反映しており、他の文化とは一線を画しています。

タイ・アホムの精神性と先祖崇拝

タイ・アホム族の精神性は、先祖崇拝に根ざしています。モイダムは、埋葬された王族が神格化され、先祖の霊として崇拝される場所として重要です。タイ・アホム族の儀式「メーダムメーピ」や「タルパン」は、先祖の霊を敬い、地域社会の繁栄と幸福を祈るためのものです。これらの儀式は、現在もモイダムで行われており、タイ・アホム族の精神的遺産を守り続けています。

自然と調和したモイダムの景観

モイダムは、自然環境と見事に調和しています。丘陵地、森林、水域などの自然の特性を活かして築かれたモイダムは、タイ・アホム族の宇宙観を体現する神聖な地理を形成しています。バニヤンの木や儀式に使用される特定の木が植えられ、水域も創造されました。これにより、自然と一体化した神聖な景観が作り上げられ、訪れる人々に深い感動を与えます。

保全状態と管理体制

モイダムは、良好な保全状態を保っています。インド政府とアッサム州政府は、モイダムの保護と保存に力を入れており、考古学的調査や修復作業が継続的に行われています。また、モイダム周辺の環境も適切に管理されており、土壌侵食や植生の成長などの自然要因による影響を最小限に抑えるための対策が講じられています。ICOMOS(国際記念物遺跡会議)の評価によると、モイダムの保全状態は全体的に良好であり、推薦地はしっかりと保護されています。

ICOMOSによる評価と推奨理由

ICOMOSは、モイダムがタイ・アホム族の600年にわたる葬儀文化を証明するものであると評価しています。特に、基準 (iii) と (iv) に基づいて、モイダムはタイ・アホム族の葬儀建築および風習の卓越した例として認識されています。ICOMOSは、モイダムがタイ・アホム族の宗教的信仰と宇宙観を具体的に表現していること、そしてこれらが自然環境と調和していることを高く評価しました。その結果、モイダムは世界遺産リストに登録されることが推奨されました。

まとめ

モイダムは、タイ・アホム族の600年にわたる歴史と文化を象徴する重要な遺産です。この記事を通じて、モイダムの概要とその世界遺産としての価値を理解することができたでしょうか。モイダムの歴史と文化に触れることで、その魅力と重要性をより深く感じていただけたなら幸いです。

投稿者 伊藤

慶應義塾大学文学部卒業。在学中は西洋史学を専攻し、20世紀におけるアメリカの人種差別問題を題材に卒業論文を執筆。世界遺産検定1級。