イタリア北部アルプスに連なるドロミテ山塊(以下、ドロミテ)は、標高3,000メートルを超える峰々が連なり、垂直に切り立つ岩壁や深く細長い谷が織りなす壮大な山岳景観で知られます。その圧倒的な自然美だけでなく、現在も続く地形の変化と、太古の海に由来する岩体が重なり合い、地球の長い歴史をそのままの姿で伝えている点も世界遺産として評価されています。
ドロミテとは
ドロミテは、北イタリアのアルプスに広がる大規模な山岳地帯です。世界遺産の公式資料では、峰・塔・尖塔・ピナクル(岩の尖り)や垂直の岩壁など、石灰岩の地形が非常に多様で密度が高い点が強調されています。壮大さだけでなく、切り立つ壁の連続と谷の深い切れ込みが、景観に「垂直性」と「緊張感」を与えていることが、ドロミテの自然美の核心です。

また、景観が一日の光で大きく変わる点も重要です。岩壁は朝夕に強い色づきを見せ、オレンジから赤紫へ移ろう色調が現れます。薄暮や月光の下でも独特の明るさを帯びるとされ、「見る時間帯」そのものが景観の一部になっています。
参照:『The Dolomites』(UNESCO World Heritage Centre)
圧巻の景観美はどのように形成されたのか
ドロミテの景観は偶然の産物ではありません。その背景には、地球規模の時間軸があります。
現在、切り立った岩峰として見える岩体の多くは、中生代、とくに三畳紀の炭酸塩プラットフォームに由来します。公式資料では、巨大な炭酸塩プラットフォームと周辺の海盆域が「自然の断面(トランセクト)」として観察できる稀有な地域である点が述べられています。さらに、上部古生代から中生代にかけての岩石がほぼ連続して見られ、約2億年規模の地球史を小さな範囲で読み解けることが、地質学的価値の根拠です。
その後、隆起と侵食が進み、氷河作用と水の作用が谷を深く刻み込みました。カルスト地形も見られ、地下と地表の水の働きが複雑な地形を生み出しています。
こうした過程は過去の出来事ではなく、今も続いています。ドロミテは、地すべりや洪水、雪崩といった動的な地形変化が頻繁に起こる山岳です。静止した風景ではなく、変化を内包する景観である点が、この地域の本質です。
参照:『Nomination file 1237rev (inscribed)』(UNESCO World Heritage Centre)
地球の記憶をとどめる岩体
ドロミテは、中生代の炭酸塩プラットフォームが良好に保存された代表例とされています。岩体には化石記録も含まれ、太古の海の環境を読み解く手がかりが残ります。公式資料では、上部古生代から中生代の岩石が連続的に観察できる点や、三畳紀研究の重要な参照地域としての位置づけが示されています。
重要なのは、美しい景観と地質学的価値が切り離せない点です。垂直に立つ岩壁の迫力は、炭酸塩プラットフォームという素材と、隆起・侵食という長期的なプロセスが重なった結果です。ドロミテの自然美は、地球史の痕跡そのものでもあります。
